2016年1月29日金曜日

2015年12月の短歌(2) カブトガニ


形良い口から覗く歯は白く好意はきっと食われてしまう

カブトガニは血の半分を無くしても生きてる深夜そういう話

本当は許してほしいわけじゃない憎んでででも忘れないでて

香水の甘い匂いを選べずにバニラ風味の煙草をふかす

出窓から逃げ出すような星々と子供だましの茶番を踊る

淋しさにバランスは無く壊れてく不協和音はラム酒の香り

感情をきれいな箱に詰め込んで箱根細工の秘密をかける

にゃあと鳴きにゃあと返せば私たち日なたの中の毛玉になれる

空を飛ぶ鯨になって雲を食う尾鰭に添える現実のあと

雨の日に一匹金魚光っててつがう誰ともすれ違えない

吐き出せば汚物扱いされていく綺麗であったはずの感情

どんなにか汚れて壊れていたとして折れぬと言えば折れぬ心に

2016年1月15日金曜日

2015年12月の短歌(1) 犬の幽霊


永遠を願え十三月が来て銀曜日には王様になる

外は雪、台所ではポトフ煮て泣きたくなるほど幸せでして

甘だるい生活感のない部屋で何も生まない火種を揺らし

寒いから淋しいからね弱いから酒を飲んでは無理やり眠る

冬が来てみんな冷たく壊れてる犬の幽霊ガラスのコップ

息を吸うように嘘つく人といて愛情なんて教えてもらう

やわらかい髪も心もないままに着飾るだけの貪欲の果て

愛情が深いからゆえよく焼いてお前の事を食ってしまうよ

晒される首は陶器の冷たさで冬と理屈を通したりする

エンドレスサマーだここに犬がいて舌を出しては蒸す劣情

真夜中にわかってしまうことだらけ走る誰かの響く靴音

漉き込んだ皮膚と感覚違うから猫舌なみにとがる腱あり


2016年1月8日金曜日

題詠blog2015の事(10)

091:略
便箋を何枚無駄にしたことか前略、あなたが恋しいのです

092:徴
目が腐るほどに平和の象徴は白鳩たちの糞にまみれて

093:わざわざ
おかしいよわざわざ君のそばにいて頼られるのは他の誰かで

094:腹
本当にあったことかも分からない蛇腹のような記憶喪失

095:申
せっかくの機会なんだが物申す母さんそれはリモコンじゃない

096:賢
賢くて楽しく生きて死んでいくヒト科ヒト目ひとり尊く

097:騙
まだ平気まだ頑張れるまだ好きだ騙し騙しに壊れる心

098:独
そのむかし膝上に座す神としてやわい猫たち孤独を埋めた

099:聴
幻聴はスペースソルジャー連れてきて止まない耳鳴り癒したりする

100:願
願わくば雪の降る中一人きり誰も知らずに静かに死ぬの


作り終わったのは2015年内ですもの。

2016年1月1日金曜日

題詠blog2015の事(9)

081:付
黄緑の付け入る隙を与えてるこんなに冷えてさみしい画帳

082:佳
キャラメルの包みを解いて口入れて風味絶佳な夜にしようか

083:憎
いくらでも溢れる怒り憎しみでたぶんいのちは輝いている

084:錦
どす黒い川面に泳ぐ錦鯉まるで切りたて動脈の散る

085:化石
美しい化石になって逞しい手が掘り返す糞袋あり

086:珠
戦いは鋭くそして馬鹿らしく真珠輝くガールズトーク

087:当
当然にとなりにいると思いたくそういう種類のお薬を飲む

088:炭
心ならとっくの昔に壊れてる瀝青炭のうつくしい黒

089:マーク
テレマーク姿勢を取って着地する抱き上げられることもないのに

090:山
可愛くて音痴なリスのいる山を心の中でたくさん登る