2016年2月26日金曜日

2016年1月の短歌(3) デルモンテトマトジュース



病的に目出度い頭で考えるただひと匙の不仕合せごと

心身の健康なほど凪いだ空なんであなたが泣くのだろうか

数値化のできないことで責められるあの日あの時何故キスしたか

与えられ慣れ過ぎている腕を編み勝者と敗者のお話をして

脆弱を言葉にすれば壁になり強い自分を崩してくだけ

葡萄酒で俄かの暖を取るようにお仕舞いでしょう我等このまま

どうなってもいいような夜、冬の町、傷が出来ては、治らずに、雪

キスをして君が毎日痛がった虫歯移ってしまえばいいよ

デルモンテトマトジュースで作ることレシピ通りの媚びた血液

次の日もその次の日もその次も死んだ目をして我等は笑う

ただ単に記号化されて食べられて消費されてくおんなのこ達

2016年2月19日金曜日

2016年1月の短歌(2) 保証人欄


チョコチップクッキーまみれ指の味発狂思考に足りない刺激

魂の重さの分のキャラメルを頬張りながら雪道を行く

言い訳を100パターンは用意して正しさをまだ信じていたい

なけなしの卑屈抱えて時を乞う露悪するほど愛しく思え

飲み込んだ言葉胃の腑を焼いていく甘苦しいだけ熱を絶てない

誠実で時々頭が悪いとこ全部合わせて好きだったんだ

何もかも暴力的に押し流しいっそ奈落へ落ちて行こうか

寄る辺ない保証人欄空きのまま角砂糖ただ溶けていくのみ

情交を果たさぬうちに流されるかつて一部であった青い血

痛みまで愛せと記憶は語らって音階みたいな叫びを上げる

嘆けとて余白の目立つ書類たち紙飛行機にし消えてしまえよ

想像の見えない海に潜りこむ世界にたった一人の呼吸

2016年2月12日金曜日

2016年1月の短歌(1) 祥月命日


明らかに不幸になれる例として君の代わりに死ねそうなこと

今すぐに死んだら悲しい人もいて祥月命日選ぶやましさ

行けばいい酒と詩集を詰め込んで雪しか見えぬ電車に乗って

傷だとか跡を残してあげたくてひらひら揺れる首の三角

牛乳に睡眠薬の砂糖入れ淋しい夢に飢えきる前に

潰し合うヨソのお家の死因たち干し餅にでもして食っちまえ

逃げ場だけ残して触れるこれ以上知ったら離れられなくなるし

安物の封筒開けてぐちゃぐちゃに一枚余分の便箋壊す

最後まで嘘つきでいて地獄でも天国だって言っちゃっていて

まだ白い産毛の光る背を向ける肩甲骨に見えない翼

週末はこれから好きになる人を探せるように自分を探す

2016年2月5日金曜日

題「元カレ/元カノ」 歌会たかまがはら1月号

歌会たかまがはらさんで、2016年1月「元カレ/元カノ」というお題で
短歌募集をされていました。
気になった短歌をご紹介。

海行こうって決めたまま付き合って三年経っても行かなかったな
(荻森美帆さん)

鍵閉める音までやさしく出てゆけばもう戻らないひとを待つ春
(太田宣子さん)

汚くてもどうしても別れを美化しがちなんですが、
純粋に歌としての美しさにひかれました。
ため息のような声がもれてしまうような、もう消化しきった別れ。

自分は下記を投稿。珍しくちゃんと作りました。で不採用。無様。

追いすがるだけの熱量持てなくて人混み紛れさらばこいびと

半年後、否、三ヶ月、次週には君の目尻を忘れるでしょう

返される合鍵溶解炉に沈めターミネーターみたいに沈め

思い出は何かひとつも壊れたら全部崩れてジェンガみたいだ

断りもなく吐く息は上がってくごめんね好きになってしまって

独り占めしたい気持ちはあったのか好きだったのか果たしてそれは