2020年10月2日金曜日

2020年真夏くらいの短歌 馬鹿でかい鳥

不幸には桃の香りと色を付け百の目玉と手足を付ける

地図もなく知らない町の道を行くどの家も人も同じ顔だけ

育ちすぎた羊の角を切るような仕事がしたい夜々のこと

暗闇で光る目玉のいくつかを見ないで向かうからからの森

人といる青紫の夜の底とおくに見える馬鹿でかい鳥

青色の防犯灯はほの光りお前が世界を滅ぼしてくれ

指先を見てる人のなか車窓から夕暮れ時をずっと見ていた

幸福が待ち受けていると思えずに満身創痍でいたる結末

血の色の何かを付けて夜に行く踊れば響くコンクリの道

隈は濃く世間を呪った風でいてあなたは黄色い花を持ってる

質量のない熱だけが目の前で布をはだけて笑い転げる

夜かけるヘアドライヤー音よく響きひとりで暮らす部屋の静けさ

太陽と延々仲良く出来なくて周回遅れの夏を始める

自分から逃げ場なくしたてっぺんで全部きたなく覆してやる

スパゲッティ・ウィズ・ミートボール白シャツを心置きなく真っ赤に汚す

夏はまだ続く誰かのハンカチを汗浸しにし謝れぬまま

言い訳の幕間あけて立ち尽くす私一人の影の色濃く

いくらでも孤独だそれは確実で海辺で貝を拾いあった日

たましいの乗り物として形取る我ら我らの不均一な手

2020年9月4日金曜日

2020年初夏くらいの短歌 犠牲者像だ

火がなくて吸えない煙草の饐えた色だれもが私を捨て去りゆくは

持ち分をゆめゆめ忘るることなかれ我れ口に含む雨垂れの水

エトセトラ我に降りゆく花吹雪幻のような犠牲者像だ

世の中の不備はすべてが私ゆえ去り際に放つ意味ない謝罪

寛容と破壊で終わるお話を寝物語に説いて、眠って

立派ではない生き方で暮らしてる村人Aの身の軽やかさ

空を飛ぶ車に乗ってどこまでも逃げられるのならついていくのに

間違ってないし誰かも悪くない頭痛のように雨だけが降る

どうしようもない衝動の結末に愛とは何か考えている

当局の関知もなしに崩されるここはおもちゃの国であること

おいおいと泣けばお前の運命が変わるわけでもないというのに

目ん玉の真ん中の黒丸々と気付けば人は人でなくなる

感傷に名前をつけて溺れこむ自分一人の底無しの海

2020年7月3日金曜日

2020年5月くらいの短歌 #30DayVerseChallenge 

#30DayVerseChallenge 企画に便乗しました。
1日一首でもきついし水準が低すぎるけど筋トレ的にはよかった。

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不幸せな子供時代を憐れまれお前に言われる筋合いはない

間違えてかけた電話で無理やりにおやすみなさいを言わせてあげる

終わりとか明確なのはないのだね指でなぞった線は消えてく

有り体に与えられてる顛末をきみと一緒に迎え撃つのさ

神さまを思考停止に使えたら願うばかりは天国のこと

栗の花冷たい匂い目を逸らす陽のもと認めた腕の白さを

暴力を振るって避けて振るわれて轍の上は足跡だらけ

この度の逆境完全アウェー戦もどるすすむも勝たねばならぬ

卑弥呼から地理歴史政治まなびゆき正しいことを成してもみたい

名を付けて心をしまう箱にある花かんむりをあなたにあげる

子を成して故郷に錦、花飾る夢は破れて東京にいる

死ぬまでに数えるうるう年の数オリンピックは残り千回

栄養を取れよ無理はしないでよあなたは頑張り屋さんだからね

プロフィールムービー映るお前ごと全部知ってる私が笑う

アルバムの母の写真は鮮やかで奪ったものは返せないまま

笑っても泣いても通用しなくって個人とかいうものになりかけ

雨が降る音も匂いも知っているそれでもなおの飽きれない日々

これまでの人生なんぞ意味はない分かっていても分からなくても

花の名をなまった脳に刻みつけ色つきしおりは永遠の春

幸せを明確に示す指標なら酒の度数が示してくれる

助手席でラジオ合わせて歌う日々窓を開ければアイドルだった

どうにでもなる腕と足は天を指すどうとでもなれる愛しい私

真夜中にたった一人で混乱しホットケーキをひたすら焼くよ

便箋の二枚目の白うすら寒く伸びた背すじの形に似てる

目の中に汗が入って痛くってやたらまぶしく君が見えない

十八の数を数えて成人の入口に立つ子供たちの背

よく罪の話をするが君の目が朱に染まるのが見たいが為に

2020年6月5日金曜日

2020年4月くらいの短歌 革命の起こし方

ごみ溜めの腐った紅茶匂い立つどこで生まれたどうして死んだ

眠れない時間を起きて過ごせずに目を開いたまま夢を見ている

過去形の尊重なんかは磨耗して自分を支えることすら出来ぬ

能無しの現実ばかり責め立てる宿酔にて不惑を忘れ

無制限に肯定だけがほしくなる甘さを苦く噛みしめている

怖ろしい夜は全てを隠しきるそれを優しさだなんて言って

眠れずにいたって今日は終わります積算清算まぶたを閉じよ

断片の体を二つ、三つ拾い肯定ごっこをたしなむ夕餉

春の道は知った名前の花に会う知らない花にも挨拶をする

散歩する犬、花屋並ぶ藤の花、いろんなものに生かされている

本当の意味を知ってて無知ぶるの社会的弱者必須教養

革命の起こし方なら知っている歴史で身体の重りを付けて

2020年4月17日金曜日

2020年2-3月くらいの短歌 希望ささやく

何もかも面倒くさくて放り出しそうして死んでるように生きてる

ずぶ濡れの誰かのそばに寄り添って呪いのように希望ささやく

祈る神を持っていないが生きていて食事の前に両手合わせる

飼い犬は全信頼を具現化し手指顔首舐めまわしてる

尊厳はすり潰されて粉になり風に合わせて巻き散っている

重過ぎる頭の花が折れていく自由のようで不自由なこと

必要とぼんやりふんわりされている黄色い花の焦点合わず

春が来る体を穿つ雨が降り音楽だけが優しいふりを

今ですら明日が来るのが怖いので死ぬまでずっと怖いのだろう

君が言う夜が怖くて眠れぬとだから目を閉じ眠るのだろう

薄い陽の灯りの下で舌を噛むこうして怒りを抱えて生きる

みちびきのように小雨は降りしきり街灯の下たまる迷い蛾

三越のある都市にいてべらぼうな消費の波をたゆたっている

灰色のグラデーションの毎日を色取る映画館の紅色

かなしいと思えお前の感情を食っては育つ象になるから

怖すぎる夜がどこでも落ちている誰も拾わず早足でゆく

2020年3月27日金曜日

過去の短歌 赤黄色

Googleの検索窓に打ち込んだ「笑顔」に今日は癒されてやる

あしたまたおはようと言いおやすみを言えたらいいねおやすみなさい

見も知らぬ誰かの訃報チョコミントアイスの墓標木べらを立てる

人は皆知らずと双子であれば良い一人の町で片割れ探す

喉笛の下にちらつく影暗くお前の首を所望してやる

治らない傷口の膿赤黄色浅ましいのは生きているせい

苛立ちをぶつける為の愛だとか見透かしてるのに君は優しい

次に口開いた方が負けになる微笑みだけで死にたくさせる

肋骨の浮いた横腹白く見せ地にとろけゆく眠り猫たち

人妻を奥さん、と呼ぶぬるい午後蛍光灯がちかちか光る

2020年1月10日金曜日

2019年冬くらいの短歌 この世はパーティー

ポッキーを開けたら全部折れていてもうすぐ世界は終わるのでしょう

明日もまた同じ孤独を持つであろうタイムマシンがあるならあるで

吐く息が白いそしたら生きていて起きて笑って後悔をして

道端で隣の人が唾を吐く右ひだりまえみぎ夜の町

草原の羊のような顔をして君たちは歳重ねていくね

等価値を与えることが無理ならば批判ではなく尊重をして

金棒にスポンジが巻いてあるようなやさしい地獄でありますように

自己満の小さな祈りの集合がイルミネーションみたいだ、きれい

アラザンが乗ればこの世はパーティーで星降る夜も信じたくなる

朝の五時あなたをどこかへ連れて行く電車が動き始めてはいる

くるいつつある倫理観すくいとる我に五月を君には酒を